「ドキュナイト2」レポート
2017年5月16日(火)19時開催@ロフトナイン渋谷
JapanDocs Presents
ドキュメンタリー・ナイトVol.2
福島原発事故による被災の「知られざる一面」
ドキュメンタリー映画「Life 生きてゆく」上映とトーク
【ゲスト】笠井千晶(監督)
【進行役】綿井健陽(映像ジャーナリスト/映画監督)渡辺勝之(Japan Docs)
第2回のドキュメンタリー・ナイト(ドキュナイト)が5月16日(火)にロフトナイン渋谷で開かれた。 上映作品は、東日本大震災の地震で大津波に襲われた福島県の沿岸部で、津波の犠牲になるが、福島原発事故の影響で立入禁止区域になり、誰の助けもなく、肉親を捜す家族を撮らえたドキュメンタリー映画「Life 生きてゆく」(監督笠井千晶)。会場はほぼ満席となる100名が参加し、上映後のトークライブには本作の笠井千晶監督が登壇した。ジャパンドックス主催。
映画の舞台は、福島第一原子力発電所の北22キロ、20メートルの津波に襲われた南相馬市萱浜(かいはま)地区。津波で77名が犠牲になった。消防団員の上野敬幸さんは、自宅にいた両親と子ども2人を津波で流され、必死に家族を捜していた。その最中、福島第一原発が爆発。街から人の姿は消え、警察も自衛隊も来ない。捜索のため避難を拒んだ上野さんの目に映ったのは、津波で一帯が根こそぎ流された萱浜地区に、たった一軒遺った我が家だった。
「津波のことを言う人は誰もいない。みんな放射能のことしか言わない。ずっーと置いてきぼりだ」と吐露する上野さん。映画の主人公である。
監督が上野さんの話を初めて聞いたのは2012年2月。映画はその後、時系列に進む。
2013年3月、地元で震災で亡くなった人の名前を一人ずつ読み上げながら打ち上げられる花火。荒れ地に種が蒔かれ、翌年には立派な菜の花畑に。震災後に上野さん一家に生まれた娘の成長とともに、光景は少しずつ変わっていくように見える。悲しみから、笑いあえる所にしたいという上野さんの思いが伝わる。
2014年6月、郡山市で、福島原発事故の除染作業で出た汚染土などを収容する「中間貯蔵施設」の説明会が開催された。会場で「土地を手放すとかまったく考えられない。家族が津波で流されまだ見つからない」と訴える男性がいた。主催する環境省の役人は「初めて聞いた」と答える。男性は行方不明の娘を捜し続ける木村紀夫さんだ。大熊町で被災、父と母、妻を亡くす。いまは長女と避難する長野県の白馬村から、行方不明の次女、汐凪(ゆうな)ちゃんを捜している。木村さんは言う。父の遺体が見つかったのは震災から49日後。原発事故の影響で野ざらしになった。大熊町で、まだ見つからないのは汐凪、一人だと。
カメラは、上野さん、ボランティアとともに木村汐凪ちゃんの捜索活動も撮らえる。そして、決定的な瞬間にも出くわす。
上野家の日常の一コマ、見舞いに訪れた東電の社員も映し出される。福島復興本社代表の石崎芳行さん。福島第二原発の所長も務め、原発事故当時は、立地地域部長。「東電テレビ会議」にも「登場」し、福島県との連絡やマスコミへの対応を行なっていた。その後、東電常務、副社長を経て、2013年に発足した福島復興本社代表となっていた。当初は東電への怒りを露わにしていた上野さんも「石崎さんは福島に必要な人」と答える。
2016年、映画のラストでは、上野さん一家が遺影を持ちながらも笑顔を見せる。上野さんは、亡くなった父の意志を継ぐように本格的に農業も開始した。あの日から5年半、時間はどこでも、誰にも、同じく流れていた。
上映後のトークでは、まずは監督の笠井千晶さんのプロフィールが紹介された。1974年山梨県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、静岡放送に入社。「宣告の果て―確定死刑囚 袴田巖の38年」(2004)「『散華』―或る朝鮮人学徒兵の死」(2006)などを制作し、2006年、静岡放送退社。ドキュメンタリー制作を深めるため渡米。帰国後、中京テレビ報道部ディレクター。中京テレビでは、長沼ナイキ基地訴訟で「自衛隊の憲法9条違反」を認定した福島重雄裁判長のその後を描いた「法服の枷」(2009)を作る。震災後は、個人として、休日を利用して被災地へ通い続けるがが、取材に専念するため2015年からフリーになり、居住地も浜松に移した。福島に通いながら、静岡放送時代から、取材している袴田巌さんが住む町なのだ。2014年3月、袴田巌さんが死刑及び拘置の執行停止で東京拘置所から車で出るときは、笠井さんも同乗していた。その模様は、ディレクター作品、ハートネットTV「待ちわびて-袴田巌死刑囚 姉と生きる今」(2016/NHK)として放送された。
進行役の綿井健陽からは、震災直後の報道写真などから、岩手や宮城と比較しながら、南相馬地区はほとんど取材が入っていなかった状況が伝えられ、会場からの質問の時間に入った。
早速、何人もの挙手が。弁護士、会社員、放送関係者、学生から感想や質問が監督へ投げかけられた。
上映作品については、これまでの震災のドキュメンタリー映画やテレビとちがって、主人公の上野敬幸さんや木村紀夫さんの「視線」にたって作られたので、好感、共感が持てる。福島県郡山市出身の学生は「沿岸部の津波被害は、県内にいても気づかない話。いろんな人に知ってもらいたい」と。「大学に入っても福島に対して暗いイメージが・・・・・・」。これまでのメディアの伝え方は、はじめから作り手の結論があるように思えるとも。
残念ながら一部のトーク紹介にとどまるが、それぞれの人が、他人事でなくそれぞれ自身の言葉で、真摯に考え、語られたセッションだった。終了後も、監督のもとへ思いを伝える参加者の列がつづいた。
(了)
震災から6年、風化に抗い開催した上映会。当日までFBなどSNSでイベントを広めてくださったみまさなに感謝、そして、たいへん多くのみなさまに参加いただき、当日のカンパも含め、あらためてお礼を申し上げます。
「Life 生きてゆく」の東京での劇場公開、さらに各地での上映が拡がり、少しでもこの映画をご覧いただければと存じます。ありがとうございした。
◇カンパ報告 19,774円も集まり、当日、笠井さんにお渡し済みです。
「Life 生きてゆく」は、いよいよ2017年5月27日(土)から地元、フォーラム福島で劇場公開されます。14時30分回の上映後にはトークが予定されています。
また7月には短縮版のテレビ放送も予定されています。
「Life 生きてゆく」についての上映や関連情報など、このジャパンドックスのページでもお知らせします。
これからも「ジャパンドックス」もどうぞよろしくお願い申し上げます。
次回、ドキュナイト3は晩夏に開催予定です。